Newscape Lab:ブランドは、未来の記憶から設計される〜ストーリーからメモリーデザインへ

Newscape Labの新着記事は、「ブランドは、未来の記憶から設計される〜ストーリーからメモリーデザインへ」です。

ブランドは長いあいだ、「物語」によって価値を獲得してきた。創業者の想い、開発の背景、素材へのこだわり、土地の記憶、職人の技術、社会に対する姿勢。商品が機能と価格だけで比較される時代において、ストーリーはブランドを匿名性から救う有効な方法だった1。なぜこの商品は生まれたのか。なぜこの会社はこの事業を続けるのか。なぜこの価格に意味があるのか。そうした背景は、顧客に選ぶ理由を与えてきた。

しかし、いまストーリーテリングは明確な限界に直面している。理由は単純である。ストーリーが過剰になったからだ。いまや、どのブランドにも創業秘話があり、どの商品にも開発者の想いがあり、どの企業にも社会的意義がある。語りは洗練され、映像は美しく、言葉は誠実で、理念は正しい。だが、その多くはどこか似ていて、記憶に残らない。共感はできるが、後から思い出せない。

ブランドに物語が不要になったわけではない。問題は、物語が顧客の経験に変換されていないことである。企業がどれほど美しい言葉で自分たちを説明しても、顧客の生活や仕事の中に残らなければ、それは情報にとどまる。理解されたブランドと、記憶されたブランドは違う。理解はその場で起きる。記憶は時間の中で育つ。

この違いは、AI時代にいっそう大きくなる。生成AIは、もっともらしいブランドストーリーを短時間でつくることができる。創業者の思想らしきもの、社会的使命らしきもの、顧客への誠実さを感じさせる文章、洗練されたコピー。それらは、以前よりもはるかに容易に、一定以上の完成度で生成される。したがって、これからのブランドにとって、「語れること」自体はもはや強みではない。むしろ問われるのは、その語りが顧客の人生や業務の中で、どのような記憶に変わるかである。

ブランドは、語った通りに記憶されるのではない。経験された通りに記憶される。顧客が思い出すのは、ブランドムービーではないかもしれない。最初に届いた箱の重さ、アプリを開いたときの安心感、店舗に入った瞬間の温度、スタッフが言葉を選ぶ一瞬、使い続けるうちに変わる素材、誰かに贈ったときの相手の表情。そうした具体的な場面こそが、ブランドを情報から記憶へと移す。

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