TOA2日目は一段とユニークなスピーカーが揃います。セッションが盛り沢山でカバーしきれませんが、今日も備忘録的にいくつか印象のピックアップを。
MOLECULEのポール・コールハースは、DeSci(ディサイ:分散型科学)のコンセプトを提示・実践。クローズドで中央集権型の科学研究の資金調達から著作権の共有の難しさ、学閥的な競争世界、情報アクセスやコミュニケーションの非対称性までのクローズドな問題点が、研究開発のリソース調達やスピードを悪化させている現状を示します。
新薬開発などでWEB3やDAOによるグローバルでオープンなIP/データ共有、自律的組織による研究プロセスとコラボレーション、権利付与や貢献評価をデジタルで行うプラットフォーム活用が大きく進展しているのは、製薬に限らずまさに日本企業や行政組織、大学の閉鎖的な研究の問題点を浮き彫りにしており、DAOのもっともわかりやすい応用領域として目から鱗の話でした。日本が進化に取り残されそうで心配になるほど。
欧州でE-bike革命を起こすCOWBOYは電動自転車界のテスラのよう。センサーを搭載したスマホをコンソールにするE-bikeは、Google連携の自動運転ナビはもちろん、走行支援やデータによる運転モチベーション管理、盗難防止やレンタル機能、事故頻出スポットの共有、緊急事故対応など、コネクテッドデバイス化による画期的なサービスが素晴らしい。UXデザインが飛び抜けておりRed Dot Design最高賞も受賞。日本でもぜひ欲しい。
セルブリック社のマッドサイエンティスト、ルッツ・クロケは、iPS細胞を活用した人間の臓器などのバイオプリンティング(3Dデジタルプリンティング)を開発する。すでに軟骨や骨の再構築、(豊胸などの)脂肪細胞、臓器移植の副作用検証などに用いられており、臓器自体の3Dプリンティングはこれからだが、未来の医学の歴史をつくるテクノロジーが非常に興味深い。
WEB3のプラットフォームによるブランディングのセッションも一つだけ。ブランドを物理的な製品サービスからデジタイズしていくことは、単純なDXだけでなく、透明性やサステナビリティの実現、個人クリエイターのインボルヴメントなど、ブランドのWEB3のカルチャーへの適合の重要性が語られる。またユーザーではなくAIによるコンテンツ生成(UGCからAIGC)への移行に関わるブランド毀損などの今日的イシューの議論も興味深い。
午後にはフェムテックのセッションも多数。フェムテックという言葉を提唱した生理管理サービスClueのセッションでは、カテゴリ創出で投資家が人口の5割を占める巨大市場を”発見”、ベンチャー投資が大きく加速した経緯なども。またストレス、テクノロジー、出会い系アプリ、ポルノの台頭などで人類のセックスが減少する時代に、FEELのマインドフルネスのテクノロジーを通じて健康的でより豊かな人間のつながりを作るアプローチとエクササイズも。
人工子宮や対外受精の未来に関する倫理的イシューをスペキュラティブデザインで提示・議論するリサ・マンデメーカーも登場しましたが、日本では長谷川愛さんが(IM)POSSIBLE BABYなどもっと先鋭的な提案をしているかもと思ったり。
欧州中心に技術実装の進むWEB3と、AI技術の爆発的進化による思想的せめぎ合いは今回のTOAでも大きなテーマに。植物のゲノム多様性は人間よりはるかに複雑だそうで、ゲノム編集がChat GPTなどAI活用による予測モデルで爆発的に精度が進化・スピード化する未来を語るPhytoformの話では、人間にとっての効率や利便性だけでなく、環境や植物の回復力を高めるなどバイオテック倫理について考えさせられました。
GitHub共同創業者のスコット・チャコンはAIでもはやソフトウェア開発が退屈なプログラミングから解放され、アシスタントと楽しくお喋りするようなプロセスにできるなど、脅威や従属よりも意味のある人間的な仕事や体験を創造することにフォーカスすべきと語ります。純粋な好奇心を追求し、自分らしい創造性や個性を突き詰めていくのは、これからの時代の人間の生き方の重要なテーマですね。
ということで未消化の部分も沢山ですが、素晴らしいインプットで思考の枠組みを拡張され、より大きなテーマと発想での思考・アクションに繋げられればと思います。