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GX(グリーン・トランスフォーメーション):気候変動が次世代の学びの体系を変える

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GX(グリーン・トランスフォーメーション):気候変動が次世代の学びの体系を変える

最近、世界の大学のGX(気候変動対策)研究の最新動向を調べているのだが、大きな学問体系の地殻変動が起こっていることに気づく。

たとえばコロンビア大は20年にColumbia Climate School(気候学校)を創設、スタンフォード大もStanford Earth(地球学/エネルギー研究)他を統合した気候変動の新スクールを22年秋に約70年ぶりに新設する。22年5月に、クライナー・パーキンスのジョン・ドーア会長から11億ドル(約1400億円)の寄付を受け、同氏の名前の入ったスクールを発表して話題になったばかりだ。オックスフォードのOxford Net ZeroやケンブリッジのCambridge Zeroのような全学の学際研究・行動イニシアティブの新組織も、一昨年あたりから世界のトップ大学で続々と誕生している。

理学部や環境科学、工学に公共政策部門など、今までの縦割りの組織では対応できない横断的な専門性が求められる地球環境課題に対して、研究から技術/政策ソリューション開発・資金調達と実装まで、大学研究の組織・学問体系を再編する動きが世界で一気に加速しており、社会変革リーダーの育成も含め、いまや最も重要な学問研究分野になりつつある。今後、次世代の学びの体系自体が大きく変わっていくことも明らかだ。

*スタンフォード大の領域横断の気候変動研究者が結集した、Stanford Climate Solutionsの動画

いっぽう日本の大学は、こうした観点での動きが非常に遅れており、環境・気候変動関連の大学院・研究所や機構の新設があっても、大学の分権自治の弊害で、縦割り組織を増やすだけで統合力が非常に弱いという問題点がある。世界レベルの気候変動・環境エネルギー研究や、領域横断課題に対する統合的ソリューション、COPなどグローバルな政策の枠組みづくりで存在感を発揮できていない。ロイターの”世界で最も影響力のある環境科学者ランキング”では、トップ100に日本人は2人の准教授しかいないのが実情だ。

たとえば東京大学には、日本の一次産業の生産技術を支えてきた農学部/大学院農学生命科学研究科という巨大部門があるが、IT中心の時代の産業変化に取り残されて、再編必死とも言われている。しかし気候変動やサステナビリティを目的軸に、農学(生命科学)・理学・工学に法学などを統合した新たな学問研究体系を再編成できれば、最先端の巨大な研究・人材リソースになり得るはず。

IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)が最近出した提言では、21年のCO2排出量はコロナ禍からの景気回復に伴い過去最高を記録した。世界の温暖化ガス排出量は遅くとも2025年には減少に転じさせる必要があるという危機的なロードマップに。排出量を30年に半減するには最大30兆ドルもの投資が必要になるそうだ。

今年はロシアのウクライナ侵攻による想定外のエネルギー危機で、状況がさらに悪化。もはや手遅れにも見えるが、今年カリフォルニア州の電力網が、最大97%の再生可能エネルギー比率を記録したように、行動変化の動きも加速していることは確かだ。こうした変化を加速するための大きな社会システムの変革ビジョンと、迅速な行動プランが今、求められている。