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●D2Cブランドビジネスが実現する価値転換② 目的なきDXから、環境・社会価値の創造へ

約7分
●D2Cブランドビジネスが実現する価値転換② 目的なきDXから、環境・社会価値の創造へ

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(骨子)

  • 世界規模で進むグリーン・エコノミーへの急速なシフトは、DXによる事業モデル転換の大きな焦点となる。D2Cモデルは、顧客との直接関係に基づく持続的な生産〜消費サイクルを通じて、資源最適化とサーキュラー・エコノミー(循環型経済)を実現するビジネスモデルの進化でもある。
  • 直接取引で原料・製品・梱包など循環型製品デザインを提供する、PaaS(製品のサービス化)で資源エネルギー消費を削減する、シェアサブスクモデルで過剰消費抑制、再利用と製品寿命の最大化をはかる、AI/IoTやオンデマンドで需要を最適化しながら過剰生産・資源消費を減らす、リバース・ロジスティクス(回収の物流)を実現するといった取り組みを、世界の先進企業はすでに実践している。
  • そして、顧客価値共創と環境/社会価値提案を一体化することが重要だ。顧客を巻き込みながら、一方通行型消費から新時代の循環型消費体験へとブランドの価値転換をはかり、経済性と社会変化を実現していくことが求められている。

グリーン・エコノミーへの事業モデルシフト

今日のビジネスやマーケティングは、かつてない環境変化と価値観の急転換を迫られている。もしあなたがマーケターとして、新製品をヒットさせ、市場や顧客の需要を増幅してモノの大量消費を促し、短期に成長を加速するという至上命題を信じているとしたら、それは背後に地球規模の山火事が迫っているのに全く気づかずに、熱心にバーベキューに薪を焚べているようなものだ

地球温暖化や環境汚染・資源枯渇などで社会の持続可能性がタイムリミットを迎え、人類規模で取り組むべき喫緊の問題に対して、このコロナ禍からの再生をグリーン・エコノミーへのシフトで実現する戦略が次々と加速している。

COVID-19による経済危機からの再生を目指す欧州のグリーン・リカバリー計画、そしてグリーン・ニューディールを前提とした米民主党新政権の経済政策など、無限に加速する生産〜消費志向の資本主義経済は、大きな転換点を迎えている。また、ESG投資の劇的な拡大が、利潤追求至上主義の株主資本主義をハックするようなかたちで、企業の環境/社会価値創造の優先順位を高めつつある。

持続可能な社会システム転換のための脱炭素化(CO2排出ゼロ)の加速、サーキュラーエコノミー(循環型経済)へのシフトが喫緊の課題となり、企業にとっては今後の市場競争や取引・資本調達そのものを左右する経営課題となっているのだ。循環型経済のビジネス戦略を提唱するピーター・レイシー他は、サーキュラーエコノミーを実現するための事業モデルとして、図3の通り5つのビジネスモデルを提示している。

図3:サーキュラーエコノミを実現する5つのビジネスモデル

出典:「サーキュラー・エコノミー・ハンドブック 競争優位を実現する」ピーター・レイシー他 著より(日本経済新聞出版社 2020)

これからのマーケターの役割は、新製品による闇雲な需要喚起・消費加速による際限のない成長ではなく、持続可能な社会を実現する循環型ビジネスモデルへの価値転換である。そこではデジタル技術の活用が鍵となっており、D2C型のプラットフォームは重要なイネイブラー(実現要素)として位置づけられているのだ。

●D2Cモデルを循環型経済シフトのドライバーにする

D2Cが加速する循環型ビジネスモデルについて、具体的に見ていくことにしよう。

・D2Cとサーキュラー型製品デザイン

マス流通・店頭陳列を前提とした製品では、サーキュラー・エコノミーや生分解を考慮したデザインはまだ少なく、例えば化粧品などは製品自体よりもパッケージに多額の費用をかけたり、大量のプラスチックの使い捨てが行われてきた。D2Cブランドでは、パッケージを重要なブランド体験接点と位置づける一方、簡素化や循環型の原料・製品・梱包デザイン自体を提供価値にする取り組みが進んでいる。例えばナイキは、サーキュラーデザインの先駆者であり、シューズとウェアの約73%がリサイクル素材を含み、製造廃棄物の99.9%は埋め立て処分されず再生されているという。

・シェア/サブスクモデル

D2Cのシェア・サブスク型サービス展開は、自動車から衣服・食・家電や住宅まで、あらゆる業界で、経済性とともに消費者の“持たざる消費”の価値観を拡げている。モノを所有しないことで過剰生産を抑制する、定期購入モデルで生産/消費量の安定とロス率を低減する、シェア利用で製品の稼働率や使用価値・寿命の最大化をはかる、といった価値を実現しうるからだ。例えば衣料ではLeTote(米)など、サブスクモデルで顧客に無限のワードローブを提供しながら、アパレル業界の製品廃棄問題の解決を志向している。

・オンデマンド/マスカスタマイズ

オンデマンド(受注生産)/マスカスタマイズ(製品のパーソナライズ)は、顧客一人ひとりのニーズに応えて生産することで無駄や廃棄を削減するとともに、フィットや“自分だけの製品”の愛着を通じて製品使用の長期化につながるものだ。多くのアパレル・パーソナルケア系D2Cが、テクノロジーを活用しながらマス型ブランドにできないパーソナライズを独自価値として提案している。

・PaaS(製品のサービス化)とAI/IoT化

D2Cモデルは、単発の製品売り切りを目的とするのではなく、顧客との継続的関係によるメンテナンスやアップデート・リペアなどのサービス価値を高め、収益モデルとともに製品寿命の最大化の実現しうる。パッケージ製品から、デジタルによる製品のサービス化によってモノの移動・物流コストとエネルギー消費の削減につながる。また、直接取引で得られるデータを活用し、AI/IoT化によって顧客の需要を予測・最適化しながら、過剰生産・資源消費を減らすことが可能となる。

・リサイクル/アップサイクル

D2Cの直接取引でリバースロジルスティクス(回収の物流)と効率的な資源のリユース・リサイクルやアップサイクル(付加価値再利用)化をはかる。ここには、ユーザー自身が修理する権利(Right to repair)なども含まれる。

アップルのiPhoneなど機器の下取り(GiveBack)プログラムは、回収した部品やレアメタルなどを、ロボットで自動分解・再生利用するループをすでに収益ベースで確立している。有名なパタゴニアのWorn Wearプログラムでは、衣服のリサイクル、修理、再利用により、ギアを使用し続けることを顧客に奨励してきた。

・リローカライズ(地産地消化)

マス流通を通さず、D2Cモデルで顔の見える生産者と消費者を直接繋げることで、サーキュラー型のサプライチェーンや需要マッチングによる流通コストと資源ロスの削減をはかりうる。また、地域への経済的還元や環境保護などのアクションに消費者も関わりながら、社会価値共創を実現していく。食品ECなどの多くが地域貢献につながるリローカライズの取り組みを価値としている。

●企業は目的なきDXから、環境/社会価値創造の実現へ

昨今ビジネスのDX(デジタル・トランスフォーメーション)が課題として声高に語られるが、デジタルやダイレクトによる自動化・効率化やコスト削減で利益を生むといった視野の狭い発想では全く片手落ちである。社会・経済環境が大きく変わり、グリーン・エコノミーへの事業モデル転換が求められる中、大企業においてもD2Cによる環境/社会価値創造を具体化していくべきだ。

そしてこれらの取り組みは、作り手サイドだけの課題ではない。生産〜消費サイクルを担う顧客への価値の訴求と理解促進を図ること。顧客を巻き込みながら、一方通行型消費から新時代の循環型消費体験へと、ブランドの価値転換をはかり、経済性と社会変化を実現していくことが求められているのだ。