NEWSCAPE

100年ブランドの資産と進化:金鳥

約3分
100年ブランドの資産と進化:金鳥

夏の風物詩ブランドとして、ある年代以上の人が夏に想起するものの一つが、金鳥の蚊取り線香だろう。
「金鳥の夏、日本の夏。」というコピーはCMで50年以上も使われ、すっかり日本人の長期記憶に定着した。また蚊取り線香の独特の香り自体が、ブランドと紐づいた貴重な記憶の手がかりとなっている。個人的には、懐かしいおばあちゃんの家の匂いを思い出す。

大日本除虫菊の創業者・上山英一郎が、あの福澤諭吉より紹介された植物輸入商のH.E.アモアから、人に無害な除虫菊の種子を譲り受け、それを使って日本の線香に練り込み、1890年に世界で初めて発明されたという蚊取り線香。
最初は棒状の線香型で約40分しか煙が持たず、紆余曲折を経て1902年に現在の二重渦巻きの発明に至り、6時間以上(人の眠る時間)煙が長持ちするというイノベーションを起こして大ヒット商品に。
蚊の多いアジア熱帯地域にも展開しながら、現在まで変わらず120年も生き続けるブランドとなっている。アースやフマキラーなどの簡便な電気式にシェアを奪われるものの、2017年には科学技術の発達史上重要な成果として、次世代に継承していく未来技術遺産(国立科学博物館)にも指定されている。

キンチョーといえばコミカルな広告が定番だが、蚊取り線香だけは屋台骨ブランドとして伝統路線を守り、上述の名コピーやKINCHOの仕掛け花火など、夏の一貫した世界観の広告を続けて殿堂入りに。近年はむしろ懐かしく、贅沢で情緒的な体験ができて、環境に優しくサステナブルな価値が見直されており、ブランドもその位置づけを強化しているようだ。

100年前からほぼ変わらないというパッケージデザインも素晴らしく、夜の外出シーンで夏祭りや浴衣・花火のイメージも想起させる。何より印象深いのが、お馴染み金鳥のシンボルマークのニワトリ。創業者が「鶏口と為るも牛後と為る勿れ」ということわざ(秦が中国統一を果たした時期に、反秦同盟の諸国を表した)から、会社のパイオニア精神を表現しているそう。
2022年には中川政七商店とのレトロデザインのコラボ製品が発売されるなどの展開も。こんな歴史に残るようなパッケージの製品が増えると、世の中ももっと美しくなるかも知れない。