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●D2Cブランドビジネスが実現する価値転換① 顧客価値共創と、循環型経済システムへの事業シフト

約6分
●D2Cブランドビジネスが実現する価値転換① 顧客価値共創と、循環型経済システムへの事業シフト

(骨子)

  • 欧米市場で成長を続けるD2Cブランドビジネスは、日本でもスタートアップに加え、大企業の参入/買収が加速し、コロナ禍のECシフトの波に乗って急拡大している。一方、同質化するD2Cブランドの過当競争も起こりつつある。
  • D2Cブランドは、デジタルネイティブ世代のニッチな流行・ライフスタイル型ブランディングにとどまるものではない。旧来型のマス型ブランドビジネスの限界を超え、21世紀型のブランディングの標準形となるものだ。
  • 特に大企業にとってのD2Cビジネスは、表層的なDXを超えて、本質的な価値転換とビジネスモデル変化を目指すべきだ。それは、顧客共創価値の実現と、循環型経済システムへのシフトである。

●同質化する“D2Cブランド・ブーム”への警鐘

2010年台から欧米で登場した、デジタルネイティブなD2Cブランドビジネスのスタートアップが、日本でも無数に登場している。トレンドに乗って資金調達に成功して急速なブームを形成している。D2Cビジネスの成長機会を見た大企業のM&Aや事業投資も増加して、エグジットの可能性も高まっている。

また幸か不幸か、コロナ禍による(10年分の変化が一気に起こったとも言われる)劇的なECシフトは、これらD2Cビジネスに絶好の成長機会を提供している。

一方で、乱立するD2Cブランドの過当競争もすでに起こりつつある。OEMによる製造からデジタル広告、ECやフルフィルメントまで外部プラットフォームを活用すれば、D2Cビジネスは簡単に始められてしまう時代。

ターゲット顧客を徹底して絞り込むことで、先行して強いマインドシェアとファンベースを確立できれば良いが、“模倣しやすい“=参入障壁が低いが故に、限られた資源の中で、創業者のキャラクターやブランドパーパス(信念)への共感、ライフスタイル提案の魅力で差別化しようということになる。

問題は、今やこれらの多くが流行りのSNSやインフルエンサー活用、表層的なパーパスや似通ったライフスタイル・ブランディング手法をなぞって、すでに同質化してしまっていることだ。追随して参入する大半のブランドは、認知もされないままニッチ市場も確立できず、過当競争に敗れて数年後には消滅してしまうだろう。

サブスク(継続課金)モデルも、その圧倒的なストック収益効果で、今や猫も杓子もの大流行であるが、カテゴリを超えて生活者の財布シェアの競争が拡大する中、家計消費の優先順位付と取捨選択が進み、今後はサブスクの勝ち組は限られるのが現実だ。

●D2Cモデルは、21世紀型のブランディングの標準形

しかし、D2Cビジネスモデル自体は、デジタルネイティブ世代のニッチな流行・ライフスタイル型ブランディングにとどまるものではない。大企業にとっても、旧来型のパッケージ化されたマス型ブランドの事業モデルを転換させ、21世紀型のダイレクト・ビジネスとブランディングの標準形となるものだ。

例えばアップルやナイキは、すでに数兆円を超える規模のD2C事業を実現しているが、マス型ビジネスが限界を抱える中で、デジタル/ダイレクトモデルによる価値の転換を実現してきているからだ。それは一体どのようなものか。

図1は、D2C(Direct to Consumer)モデルを構成する要素と、それらが実現する価値転換を示したものである。ポイントは、デジタルネイティブなメディア・テクノロジー活用による、顧客との直接的なインタラクションとデータ共有を軸にした、①顧客との関係/共創価値の実現、②循環型経済システムと環境/社会価値の実現という点だ。

まず①顧客との関係/共創価値の実現について見てみよう。D2Cブランドのコンセプトやカテゴリ独自の課題解決・価値提案はさまざまだが、図の左側の顧客価値は、メーカーのマス型・間接流通ビジネスでは満たされなかった、D2Cモデルならではの関係/共創価値要素を示している。鍵はこれらの価値要素を、模倣されないよういかに独自化できるかにある。

ECなどコンシューマーへの直接販売は、売上の4割平均ともいわれる卸・販売代理店などの間接流通コストを大きく効率化し、価格競争力(エコノミー)を実現しうる(一方で、配送コストが商品価格帯の制約要因となる)。逆に顧客に認知してもらい、直接的な価値提供を行うためのマーケティングに資源を割くことが重要となる。

顔の見える顧客との直接対話とデータ共有は、マス商品では実現できなかったニッチ/マイノリティ市場への価値の実現や、オンデマンド/マスカスタマイズのテクノロジー活用による、自分だけの価値提供を可能とする(フィット・パーソナル)。

さらにメーカーにとって重要なのは、D2Cモデルの中核的な事業転換は、一度きりの購買・交換価値から、モノやサービスの使用価値/体験価値を通じた直接・継続的な関係づくりへの変化という点である。

これは、フリーミアム・従量課金やサブスクなどの収益モデルの進化、バイヤー/コンシューマーからユーザー/ファン、さらにインフルエンサー/エバンジェリストとしての顧客との関係性進化、そして機能やブランドイメージから、体験価値/パーソナライズ/目的実現やなどの、価値ドライバーの進化を意味するものだ。(図2)

そして、D2Cブランドにおける関係価値は必ずしも企業と顧客の一対一のモノではない。シェア(ユーザー共有)や会員コミュニティ、リローカライズ(地産地消化)などの関係価値を生み出すことで、生産者・地域と消費者の繋がりを築き、価値観や目的を共有するコミュニティとの共創を実現することができるからだ。

地域の文化や生産者を応援消費で支えたり、クラフトビール文化を拡げるコミュニティを育てたり、シェアの文化によって環境負荷や無駄を減らしながらモノの価値を共有するといった、人を軸とした関係価値の進化は、社会やコミュニティにとっての大義を生み出すことができるのだ。

そして、実はD2Cモデルは、顧客との直接関係に基づく持続的な生産〜消費サイクルを通じて、資源最適化と循環型経済(サーキュラーエコノミー)を実現するビジネスモデルでもあり、特に大企業にとって、効率化とコスト削減が目的になりがちなDX(Digital Transformation)の大きな目的となりうる。この点については後編で解説していきたい。

(後編に続く)