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ダイバーシティ・コミュニケーション最前線

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ダイバーシティ・コミュニケーション最前線

最近、実務を兼ねてテーマを決めて取り組んでいる今日的なブランディングの研究分野がいくつかあるが、ダイバーシティ・コミュニケーションがその一つだ。

日本ではジェンダー、特に男女格差の社会的問題が顕在化してずいぶん時間が経つが、研修による意識づけや制度的な枠組みづくりの議論は進んでも、無意識のバイアスの解消や、現実の行動変容になかなか至らないというアプローチの問題点を感じている。

世界の新しい研究や知見を取り入れながら研究していると、一つヒントになるのが、米国などで行動経済学のナッジ理論(制約や罰則ではなく、無意識の気づきで人々の自由で自発的な選択を後押しし、ポジティブな行動変容に影響を与える方法論)のダイバーシティ活用がかなり進んでいるという点。

ダイバーシティ/インクルージョンナッジという領域はかなりの科学的研究と実践の蓄積があり、自発的な気づきとプロセス設計、認識を変えるフレーミングなどが確立している。問題提起とあるべき論の押し付けが、残念なことに男女の感情対立になりがちなジェンダー議論を乗り越える上でも、もっと日本でも導入していった方が良さそうだ。実は広告コミュニケーションなども非常に学ぶところが多い。

もう一つがニューロダイバーシティ(脳の多様性)について。先日も伊藤穰一さんが、天才の集まるMIT(ノーベル賞受賞者を90名以上も出している)では、6-7割ぐらいの学生がニューロダイバージェント(自閉症やアスペルガー症候群・多動症など)と診断されるとPodCastで語っていたが、近年はこれらを「病気」ではなく「個性」として捉える流れが広がっている。

最近は経産省もIT領域のニューロダイバーシティ人材活用に注目しているが、同調圧力が強いと言われる日本社会において、「普通」や「常識」に縛られない、枠から外れた物事の知覚や認識の多様性を尊重することは、天才やイノベーションを生み出す上で極めて重要だということを再認識する。

そしてニューロダイバーシティの概念は、今日では障害に関わらず、誰もが一人ひとり脳や神経の多様性を持つというところに広がっている。たとえば脳科学の研究では、一次視覚野(脳皮質で一番最初に視覚情報が処理される場所)で処理されている情報のうち,外部(目の網膜)から送られてきた情報を処理しているのは,全体のたった4%に過ぎないということもわかってきており、外側の世界を「見ている」と感じている視覚的な映像のほとんどが、脳内で作り出されたものを見ているだけの可能性が高いそうだ。

そもそも、人間の脳は文化や言語・環境によって影響を受けた「社会脳」として、無意識に見るものや知覚の仕方を選んでおり、文化や言語が異なると同じものを見ていないわけだ。同質化された長く組織にいると、物事の知覚・認識の仕方自体が染まってしまうように。

インクルーシブな環境デザインという点では英国などが進んでいて、例えば放送局のBBCはD&Iの先進的な取り組みガイドをパッケージ化して提供しているほどだが、自閉症やアスペルガー症候群・失読症の人材などがストレスを感じない、ニューロインクルーシブなオフィスデザインについても最先端の研究と実装(上写真)が進んでいる。

まだ日本ではバリアフリーなどが中心で、ニューロインクルーシブは未開拓の分野だが、最近大学のキャンパスや、企業のイノベーションセンターのプロジェクトに関わる機会があって、こうした視点がきわめて重要だということに気づくのだ。